900STは何故DTMの定番機種になったのか?元ニコ厨的考察

初投稿です。

アヘバス管理人です。

今回はSONYの定番ヘッドホン、「MDR-CD900ST」についてのトピック。

実質炎上ネタですが、その経緯をリアルタイムで見ていて、「あっ、これは誰も触れてない!忘れていることがあるぞ!!」という歴史の間に埋もれている内容があるので、DJヘッドホンではおすすめしなかった「MDR-CD900ST」について、このブログでも触れていこうと思います。

基本的に炎上ネタに関してはNoteでやってます

「あつあつバッドアスギーク」というマガジンにまとめて旬のDJ論を書いています。

https://note.com/dj_makutan03/m/m1bdc3774c7ba

別に他人の不幸で飯が食いたいわけではなく、単純に自分が炎上したDJ論について思っていることに「ブレがないか」「DJとして一貫性を保てているか」を確認するためだけのブログなので無料で読めます。

MDR-CD900STとは

MDR-CD900ST

モニターヘッドホンというカテゴリに属する日本のスタジオ作業の超定番ヘッドホンです。

発売はSONYからです。

モニターヘッドホンについての詳しい説明は、アメリカを始め欧米諸国でのスタンダードモニターヘッドホンであるオーディオテクニカ「ATH-m50x」をレビューした際に解説しているので、モニターヘッドホンの概念がわからない方はこちらの記事も読んでください。

MDR-CD900STはミックス向きのヘッドホンではない

ミックス・マスタリング用としてはオススメしません。同じ価格帯で、作業がやりやすいと感じるヘッドホンはいくらでもあります。
あと、色んな用途で使うヘッドホンが欲しい、お金に余裕がないから一つだけ買いたい、と言う場合はMDR-7506などの方が良い結果になるかもしれません。

結局、SONY MDR-CD900STってどうなの?って話

実際、自分も900STを所持していますが、のっぺりした面白みにかけるサウンドは正にモニターという所で百歩譲ったとしても、特に低域がスカスカに聞こえるということは個人的には問題なのではないかと感じます。

細部を見るためには必要ですが、全体を整えるためには些かサウンド傾向が特定の方向に向きすぎているという印象は拭えない。

虫眼鏡で山を見ながらスケッチしないよね?って話です。

でも900STは「DTM用の標準ヘッドホン」ということで今日までその評判が形成されていて、なんなら900STで完結しないミックスは腕が足りてない等々、他のモニターヘッドホンもプロが使用しているにも関わらず、プロミュージシャンに支持されたいるからだけでは説明がつかないくらいの過剰なレビューが付いているわけです。

モニターヘッドホンは主に音のチューン、調整に使われるものですが、実際にはモニタースピーカーがありますから、基本的にはモニタースピーカーで調節されますよね。ヘッドホンで聴いたときの音の評価や、サブシステムとしてミキシングに使って頂いてます。

【インタビュー】SONY”MDR-CD900STを創った男”投野耕治氏インタビュー!

開発者の投野氏はこのヘッドホン1本でミックスが全て完結するみたいな想定していないはずであると言えると私は考えます。

それにも関わらず、必要以上に神聖視されている事に疑問を感じるわけです。

そこで、今回はもはや一種の「信仰」とも言えるようなレビュー数、文字数の多いレビューが蔓延する原因の1つに初音ミクブームによって副次的に生成された「歌ってみた」による宅録文化よる所が大きかったからではないかという説を提唱していきたいと思います。

ボカロブームに後押しされる「宅録文化」

かれこれ13年前のVOCALOID2の発売によって、DTM人口が急激に増えるという現象が起きます。

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クリプトン・フューチャー・メディア

年間売り上げ本数が1000本行けば大ヒットと言われている音楽ソフト業界の中で、たった1年で売上本数40000本という偉業を成し遂げた初音ミクを始めとするVOCALOID2シリーズによってDTMブームが牽引されたと言ってもいいでしょう。

この当時のシーンを語る上で外せないのがご存知Supercellのメルト。ボカロにおける歴史やボカロブームがバンドサウンドで形成されることを決定づけた今も色褪せない名曲です。

メルトで火がついたボカロ×バンドサウンドの王道構成は少なくとも2014~15年のブーム終焉まで続くことになります。

ランキング上位を席巻し、CD収録された楽曲のほとんどはバンド物です。
嘘だと思うならTSUTAYAのひなびたボカロ・ネット楽曲コーナーでCDを探してきなさい。ほーら聞こえるかい坊や、これが東京テディベアさ!

破竹の勢いで成長を遂げてきたボカロシーンと同じ速度で発展していったのが、カラオケ用に配布しているインスト音源に自分の歌声を乗せる「歌ってみた」文化です

全国津々浦々からのど自慢達が、歌唱力だったり、二次創作ネタだったり、中の人ネタだったりで勝負をかけていくというそんなレースも並行して行われていました。

当時のDTM環境の整備 = 宅録環境の整備

ここからが本題。

脇道にそれたボカロブームの話とは打って変わって何故900STが覇権を握ったのかという話。

前項でも述べた通り、歌ってみたの動画を制作するためには「配信、録音のためのオーディオインターフェイス」「録音用マイク」「編集用のヘッドホン」がとりあえず必要になってきます。

そこで定番機種として覇権を握った配信機材がこちら

オーディオIF

「ローランド QUAD CAPTURE UA-55」

録音用マイク

「Shure SM58」

ヘッドホン

「SONY MDR-CD900ST」

この3つは当時「歌ってみた」をスタートするのに必須の装備という印象です。

この3つに共通して言えるのが

  • 割と安価でどこでも誰でも入手できる
  • 誰でも簡単に使える
  • 雑誌やネットでの紹介が豊富

これらを満たす要件じゃないと、情報が非常に少なかったです。

と、言うことでサラッと歌ってみたを投稿しようとしていた黒歴史を追加。
あぁ、死にたくなってきたな?

裏付け、というわけでもないのですが、DJ的な勘所だと
「ミックスで楽にキレイに編集できるソフトはどんなものだろうか?」
という所から機材(ソフト)選びが始まってくると思うんですよね。

何故なら58にしても、900STにしても、最悪レコーディング用のIFにしても購入しなくてもスタジオで借りられるから、言ってしまえば代替が効くわけで。

となると、DAWやプラグインの優先順位は結構高くなってくるはずなんですが、実際に「歌ってみた」関連でのTipsが多かったのはSoundEngineやAudacityといったWindows用の定番フリーソフトウェアでの簡易編集でのTips、そして音声や動画配信のステレオミキサー設定に関しての需要が非常に高かった記憶があります。

DAWやプラグインは発展して楽曲制作するのであれば、「選ばれし勇者」的な感じの扱い。

ちなみにDAWに関しても現在の流行は安価なStudio OneやLogic、ループ系が得意なAbleton Liveが多い印象ですが、当時はMTRベースのCubaseとSonarの2強です。

DTMといえばMac、というのはこの当時からあんまり変わってないですが、Win専用のSonarが片翼を担ってたあたりどういう状況だったかは察してください。Macの事はよく知らん。

したがって当時を振り返って思うのは「編集用のソフトウェアを駆使してミックスをキレイに」というよりかは「ミス無く完璧にレコーディングが完結できること、配信にも使えるマイクやIFはできるだけいいものを使ってソフトは最小限」という方が圧倒的に需要が高かったのではないかと言う説を提唱します。

マイクやIFやヘッドホンが高い、というのは機材のランクが高いとかいうことではなく、いつまで続くかわからん趣味にスタート5万円を要求するのは高くつくって事です。

当時は今ほどインターネットでのマネタイズの手法は確立していなかったわけで、ノウハウも乏しいですから失敗もできない。

そうなってくるとやっぱりヘッドホンはSONYとなるわけですよ。

カラオケでストレス発散してるような一般人がオーテクやAKGなんか知っとるわけがない!!

ヘッドホン言うたらSONYかビクターかパナソニックじゃい!

伝説の始まりは需要と供給のマッチ

さて、ここでようやく900STの話。

定番機種という枕詞もそうだし、何よりSONYという誰もが知っているメーカーなので、購買決定の際にはかなりアドバンテージが働きます。

ただ、ネームバリューだけで品物を買うのは損するんじゃないか、と思う読者もいらっしゃると思うので、補足をします。

この当時、900STを買う選択がスタンダードであり、「歌ってみた」等の録音に用いると仮定するなら、限り無く正解に近い選択です。

900STは元々レコーデイングする際の声の大きさやトーンが自然に聞こえるような要求を受けて作られたヘッドホンであり、「歌ってみた」の録音で自分の声のモニターをするっていうのは想定通りの環境です。

またコンシューマ製品ではないプロ向けの品物というのを手に入れるのも、こうなんというんでしょう、自分がステップアップしているような気がしてグッとね、モチベーションをあげてくれるわけですよ。

900stは約10年前の環境であればカツとカレー、ツーと言えばカー、阿吽の呼吸、息ピッタリなそんなチョイスなわけです。

伝説が神話へと変わる「MDR-CD900ST信仰」

と、言うことでインターネットで自己承認欲求を満たしたいあなたは無事に大枚をはたいて三種の神器を手に入れることになりました、めでたしめでたし。

…とはならないわけです。

DTMやレコーディングに片足でも突っ込むと自分の才能のなさに泣きたくなってきますね。歌を歌えば、声質が鼻声だったり、滑舌が良くなかったり、音程がちょっとおかしかったりと散々なわけですよ。

900STを使えば嫌でもそれがわかってきますが、前述の通り、リソースを使い切っているので、編集ソフトには手が回らないし、MIX師と呼ばれる歌ってみたデータを加工してくれる人に渡すツテもない。

でも、SM58が数々のバンドマンや過酷なステージを支えてきたことは事実だし、900STが数多の名曲を生み出す手伝いをしてきた事実とそれに付随する金銭的価値は変わらんわけですよ。

自分は使いこなせていないけれど、買った機材は間違いじゃないから、高評価レビューがどんどん増えていくわけです。試しにサウンドハウスでのレビューをご覧じてください。

「サウンド/つけ心地については他の人が書いているので特に書くことはありませんが」の枕詞から始まって自分語りが始まるレビューがめちゃくちゃ多い。

あまつさえプロはこれでミックスもやっている!とにかくプロが使っているから批判は許されないけれど、現実問題として自分の手元では死に機材みたいになっているのは私の腕が未熟だからこういう感想になっているだけ。もっとこれから音楽を頑張る的な事が書かれていて、中々味わい深い

憧れのプロが使っていて、少し頑張れば届く伝説が、本人の機材チョイスミスにもかかわらず、絶対間違いがない機材という強固な信仰とかけ合わさって高評価の神話が形成されている。

レビュー評価を元に次々と犠牲者を生み出し、内情をよくわかっていない第三者のアフィカスがとりあえずこれ!ということでいい加減なレビューでどんどん増えていく、これがMDR-CD900STが万能かつ唯一神のような扱いを受けた「定番機種」と言われるところなんじゃないかなと考えます。

現在のDTM事情と900ST需要

さて、2020年現在は巷を席巻したボカロムーブメントは終焉を迎え、サウンドクラウドやバンドキャンプを主戦場にインターネット発のミュージックムーブメントは少なくともボカロ×バンドサウンドの一強時代の頃よりも確実に細分化されています。

考えられる理由としては主にに2点。

  • 技術的な側面
  • 世界的な音楽のムーブメントがロックからブラックミュージックへと遷移した

技術的な側面

これは単純に音楽再生機器の性能向上やネットワーク・インフラの整備によって当時と比べて低コストで周波数レンジが広いリッチな音が聞けるようになった事が大きな要因であると私は考えます。

音楽コンテンツのマネタイズの主戦場がCDからストリーミングに変わりつつある中で、もっと周波数レンジが広いきれいな音というのが市場の声なき声であり、個人で所有するレベルの音楽機材、ハードウェアは低価格により手軽になってきており、その声に答えるポテンシャルを持っているわけです。

世界的な音楽のムーブメントがロックからブラックミュージックへと遷移した

卵が先か鶏が先かのような話ではありますが、テクノロジーが発展し、より量感を伴った低域が出せるようになった事が音楽のムーブメントを変えているのではないかという話です。

アジカンの後藤正文氏が低域の重要性ということでインタビューを受けている記事が非常に参考になるので、興味がある人はご覧になったらよろしいかと思います。

https://realsound.jp/tech/2019/02/post-316161.html

ヘッドホンも当然、その傾向は受けてきますし、事実MDR-CD900STも現在の制作環境とマッチしない部分が相当出てくるわけで、そのことも踏まえて新製品のMDR-M1STが満を持してリリースされました。

MDR-CD900ST

レコーディングという工程が存在し続ける限り、900STの需要が完全に消えるわけではないですが、ともすると制作がデジタル上で完結する現在では作業用ヘッドホンとしての900STの優先順位のアドバンテージはDTM=宅録だった当時ほどは強くなくなったわけです。

しかしながら、怨念のよう量と質を伴った900STレビューが中々それを許さないわけで、現実との乖離で今からヘッドホンを買う子たちは板挟みの状態で苦しんでいてあんなに燃えたのかなぁと思ったりします。

おわりに ポスト900ST不在の今

以上の事から、過去の環境と現在の環境での900ST求められ方の乖離についてニコ厨(もうこの響きが懐かしすぎる)の視点から考察しました。

900STがどのヘッドホンよりも優れていてミックスも勿論完璧にこなせると言うのはどうやらそうじゃないらしい、と言うことで現環境のDTMでは必須とまでは言いにくいのではないかというお話でした。

しかしながらモニターヘッドホンを標榜する次世代の製品群の相場価格はどんどん上場しており、900ST一強だった時代からすると比較検討が難しくなっているのも事実です。

DJがカロリーを低く機材を調達するのであれば、DJモニターと兼用のヘッドホンを最初の1台にチョイスすることが案外重要になってくるのかもしれません。

こと、DJ機材においては機器自体のSN比が向上していることや、昨今流行しているサウンドはブライトなチューニングである傾向から、DJヘッドホンはキャラクター的にこうでなければならない!というのが無くなっている印象があります。

従ってDTMも行いたいDJはモニター向きのDJヘッドホンをチョイスするのがベターになってくるのではないか、という提言を行ってこのトピックを終わりにしたいと思います。

ちなみに、CD900STについてこのようなお気持ち表明をしたかと言うと…

使えもしないのに買ってるからなんですよ。